Enjoy our Art Life

出会い×島袋×野村×岡山
タコとタヌキ-島袋野村芸術研究基金
「イヴェント-1 岡山直之の仕事」
→プレスリリースはこちら
2001年1月26日[金]午後6:00〜
「出会い」展
(東京オペラシティギャラリー)にて

TEXT by Eri Otomo


作品説明する岡山と、島袋、野村。


このブースの仕掛人、
島袋道浩(右)と野村誠(左)


ウナギ画廊の奥に梯子があり、
上ると糸電話がある。


梯子の上からの眺め。
お座敷風の会場は岡山のアイディア。


糸電話の向こうはこんな風に見えます。


タクシー運行中


岡山のトーク終了後、
お客さんが野村を囲んでおしゃべり。


 何を隠そう、私の今年のテーマは"素敵な出会い"である。昨年を振り返ってみると、一つの出会いから思いもよらない面白い事に発展したり、出会った人を通じてさらにたくさんの素敵な人達と知り合うことが多い年だった。だから今年も素敵なハプニングに巡り合うべく、人との出会いを大切にしようと思っている。最近よく思うのは、現代美術の世界は人のネットワークで成立しているということ。面白いアーティストがいるなどという情報源はもっぱら口コミや雑談や知人の紹介であり、人のつながりは思わぬところでリンクしているから、アーティストはその存在なり仕事を出会った関係者に認識されることが大切である。  以下に紹介することも、そんな「出会い」のいい例である。
 現在、東京オペラシティで開催中の「出会い」展に、島袋道浩が友人で音楽家の野村誠とコラボレーションを組んで参加している。二人の個々の作品も展示しているが、中心となるのは「タコとタヌキ-島袋野村芸術研究基金」。彼らに与えられたスペースに外部から様々なアーティストを招き発表してもらうのである。その第一弾として岡山直之が登場した。彼は熊本に在住し、九州を中心に活動するアーティストである。彼が招待されたきっかけは、1998年3月彼や私が当時在籍していたCCA北九州リサーチプログラムの「オープンスタジオ」展に島袋が遊びに来て、二人が出会ったことだった。岡山のスタイルやその時発表した作品「劇場」にとても感銘を受けたらしい。
 私が訪れた1月26日夕方。岡山はスライド等で過去の作品を紹介し、彼がオペラシティで制作した出来たてほやほやの新作3点を、島袋たちのコメントを交えながら発表した。
 まず、島袋と野村が会場の仮設壁の中に遊び心で作った「うなぎ画廊」「うなぎ劇場」に、岡山ははしごとその上に糸電話をそれぞれ設置した。二つの糸電話はちょうど「芸術研究基金」オフィスの対角線上で結ばれている。はしごを上って向こう側で同じくピョコっと頭を出している人がいれば「折角だから話でもしてよ」ということらしい。岡山は気付いていないかもしれないがこれにはオチもある。2つの「うなぎ」の出口は90度に向き合っているため、糸電話を終えて出てくると会話していた相手と晴れて「ご対面」するのがなかなか可笑しい。
 もう一つの作品は“会場案内タクシー”(正式タイトル不明)。これは彼お得意のスタイルで、一人乗りの小さな台車(もちろん手作り)に観客に座ってもらい、岡山が自らこれを引いて「出会い」展全体を案内する。彼のアートの基本はコミュニケーションなのだが、自分も相手も楽しくコミュニケーションする、または出会うために、彼はいろいろな“おもてなし”を考える。この愉快なギャラリークルーズもお客とコミュニケーションする場なのである。ちなみに昨年行われた福岡市美術館のグループ展に参加した時は、大人が寝られるベッドのような車で美術館がある公園内を案内したとのこと。
 そして残る3つ目の作品は、岡山が東京オペラシティギャラリーの職員の皆さんと交した会話をビデオに収めたもの。受付の女性や警備員の所に行っては話しかける。ここでどんなことしてるの?趣味は?など、一応質問事項はあらかじめ用意しているが、意外な展開が起こることも特別な物語性もなく、ごくありふれたやりとりである。話しかけられた方は快く話に応じていた。岡山曰く「1週間この会場に通っているのに、ここの人達とはちょっと挨拶するだけで全然知らなかったからさぁ。」
例えば、いつも同じ通勤電車に乗り合わせるのでお互い見たことがあり、認識しているけれども知らない他人同士であることに、居心地の悪さを感じたことはないだろうか。目が合ったら言葉を交す。そんな本来ごく当り前であるはずのことが、なかなか難しく感じられる。昨今、家族間で殺人事件が多発していることを考えると、岡山のシンプルなその行為がとても重要性を帯びてくる。相手を理解しようとすること、自分を示すこと。彼のコミュニケーション・ワークはそれによって何かを示唆したり啓蒙するものではなく、基本的には自身のためにひたすら実践・追求しているのが面白い。たぶんそれはきっと、心の豊かさをもたらしてくれると思う。
 そして、その岡山を招待した島袋の制作活動も、コミュニケーションの問題を孕んでいる。彼のおかしな旅には、タコや鹿やサルなど人間の言葉の通じない動物がよく登場する。島袋が彼らに対して何か感情を抱いたり思考することから始まる。全くのディスコミュニケーション状態下からコミュニケーションを生み出そうとするその心の動きや過程を、言葉やドローイングや映像でつづる。ユニークでとても新鮮である。
 また野村は音楽家ではあるが、一緒に作るとか音楽で言葉を交わすということをよく理解している人だと思う。ジョンケージの影響だと思うが、自分の分かるように紙に曲を書き留める「しょうぎ作曲」は、五線譜を知らなくても自分の中の音楽を表現できる創造的なアイディア。そして飛び跳ね走り廻りながら子供達と共同作曲(演奏)をリードしている彼の姿にちょっと感動した。
三人とも、やっていることはそれぞれ違うのに、似ている気がする。アートが楽しいと思わせてくれるところだろうか。友達を招く楽しさもあるし、とにかくGoodな顔合わせだった。  ということで、楽しい出会いを探しに出かけましょう!






※「タコとタヌキ-島袋野村芸術研究基金」チラシより
出会い Encounter
タコとタヌキ-島袋野村芸術研究基金
イヴェント-1
岡山直之の仕事
2001年1月26日[金]午後6:00 →
1月27日[土]午後2:00 →
場所:出会い展会場内 タコとタヌキスペース
料金:無料(但し、展覧会入場料が必要です)
協力:アサヒビール

美術作家、岡山直之さんのこと

島袋道浩

3年ぐらい前、北九州にある展覧会を見に行った時のことです。オープニングの日の開館より少し早いぐらいに僕が会場へ行くと、自分のスペースをホウキで掃除している作家がいました。それが汚れているから掃除している、という風では無く、場を浄めている、というか「さあ今から自分の作品を見せるぞ」というけじめの儀式のような不思議に心に残る掃除をしている人がいました。
それが岡山直之さんでした。
その時、岡山さんが出展していたのが、「劇場」というタイトルの作品。数種類の高さのこたつが階段のように舞台装置のように配置された作品でした。そこで岡山さんは来る人達、観客に本当に自然にみかんをすすめたり、話しをしたりしていました。掃除といい、みかんのすすめ方の自然さといい、これはただものでは無いと思い、話してみると、岡山さんは木こりをしながら美術作家をしているという。これまで、自分が働いている山そのものを使ったプロジェクトなんかもしたことがあるという。
他にもいろんな話しを聞いて、岡山さんの美術への関わり方に本当に感銘を受けつつ何度も大笑いしました。 岡山さんは現在、熊本の山で働きながら、本当に木こりが斧やチェンソーを必要とするように美術を必要としている人だと思います。
今回、岡山さんを東京の人達や友達に紹介したいと思い、このイヴェントを企画しました。
岡山さんは1月23日から27日まで僕達と一緒に滞在します。そして26日と27日にはこれまでの活動を紹介してもらいたいと思っていますが、もし一緒に何か展示やプロジェクトができればぜひ26日と27日に公開したいと思っています。
[タコとタヌキー島袋野村芸術研究基金]情報 インターネットで公開中

大友 恵理/Eri Otomo
1970年 函館市に生まれる
1993年 弘前大学人文学部人文学科卒業
1998年 CCA北九州リサーチプログラム・キュラトリアルスタディコース終了
2000年 「Here.Now 2000-1997」展に参加
執筆:N-mark「妻有越後の歩き方」、美術手帖9月号「マニフェスタ3」等

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