「越後妻有 旅のエッセイ」

 限られた3日間、とにかくできるだけたくさんの作品を見てまわろう、とオープニング初日より「大地の芸術祭」の旅は始まりました。耳にしたことのない市町村名。交通事情などもおぼつかないし、距離感もまったくない。未知の海へ向かう船のように出発しました。六つの市町村から成る妻有(つまり)はこの時期、想像以上の暑さと湿気です。そして142もある作品の多くは雄大な地域の中、交通の便の悪い、地図でもわかりにくい場所に点在しており、急激で足場の悪い山道を徒歩で登らないと出会えない作品もいくつかありました。  各エリアの案内所で与えられた地図と、うっかりすると見落としてしまいそうな“こへび”マークの標識だけが頼りの炎天下の山中アート鑑賞巡りは直射日光にさらされた危険な山道を走り抜くサバイバル・ラリーのようでした。  設置場所は様々です。殆ど行きづらい、わかりにくい奥地です。人里離れたお寺の本堂や神社の境内。山あいの沼地や池。谷間の棚田、畑の斜面、急勾配の山腹、トンネル。そして駅構内、民家、小さな商店街、道端の空き地など、この地方の特色ある空間全てが展示スペースとなっているのです。  作品探しを続けるうち、私達は道程が困難であればあるほど程、そこへたどり着きたいという欲求にいつしか駆られるようになり、壮大な宝探しのゲームをしているような感覚にとらわれました。まるでアーティストや地元の人々が仕掛けた罠にはまるように、里山の奥へ奥へと入り込んでしまうのです。そして今まで知らなかった美しい沼や植物群、無名の神社を発見し、林の中の別世界のような民家が連なる村に踏み入り、素晴しい自然に囲まれた地域の隅々を、人々の日常を、出会った作品と共に体感することになるのです。奥深い山の中に突然ヌッと姿を現す現代アート。  私達にとっては、鑑賞というより、ワクワクする冒険のようです。そしてアーティスト達には申し分のない展示空間。行く先々ですれ違った、国内外の何人ものアーティスト達は生き生きと、満足そうに楽しんでいるようでした。土地の方々とささやかな交流もありました。そして私達はこうしたアーティストや妻有の人々が演出し、用意してくれた壮大な大人のためのテーマ・パークに挑む冒険隊(?)。夢中になった3日間のゲームはあっという間に終わり、日に焼け、余韻と感動を引きずり日常に戻ってきました。

[RH]


 


 

 

 

 

 

越後妻有アートトリエンナーレ
会期:2000年7月20日〜9月10日
URL:http://www.artfront.co.jp/
art_necklace/top.htm

Copyright Eri OTOMO, 2000. All rights reserved.


N-mark.com
Copyright 2000.N-mark.com,All rights reserved.